ルールは破れることがある?「エリオット波動の行き過ぎ」を考察

更新日2020年1月25日
エリオット波動の行き過ぎイメージ


エリオット波動の「波動の行き過ぎ(ルールの破れ)」についてメッセージをいただくことがあります。

エリオット波動の3つのルールは絶対的なもので「波動の行き過ぎ」など無いと思っている人も多いのではないでしょうか。

しかし、エリオット波動のルールは一時的に破れてしまうことがあります。


日本ではエリオット波動があまりメジャーではないからかもしれませんが、残念ながらこのエリオット波動の「波動の行き過ぎ」を取り上げた記事をネット上で見つけることはできません。

そこで今回は、「エリオット波動のルールとは?」、「なぜそのルールは一時的に破れるのか?」、そして「どのルールが破れるのか?」などを識者の見解や具体例を用いながら考察してみたいと思います。





 目 次 


■エリオット波動の行き過ぎ(ルールの破れ)の可能性


■エリオット波動の行き過ぎ(ルール破れ)はなぜ起こるのか?

  • 【識者の見解】高レバレッジではルールが破れる
  • 下位の段階では行き過ぎ(ルールの破れ)が起こり易い
  • 【ルールが破れる理由:その1】主導通貨の影響で行き過ぎる
  • 【ルールが破れる理由:その2】経済指標などの影響による行き過ぎ
  • エリオット波動の行き過ぎは一時的【反転のトリガー】

■どこが行き過ぎどのルールが破れるのか?【2つのポイント】

  • 衝撃波の3つのルールとは?
  • 【ポイント:その1】2波動目の一時的な行き過ぎ
  • 【ポイント:その2】4波動目の一時的な行き過ぎ
  • 実際の為替相場チャートに現れた行き過ぎ【ユーロドル4時間足】

■エリオット波動の一時的な行き過ぎのまとめ







エリオット波動の行き過ぎ(ルールの破れ)の可能性



エリオット波動のルール破れの可能性を知っておくことはとても大事です。


なぜなら、フェイラーと同様に、この可能性を知らないとエリオット波動の波を正しくカウントすることができないからです。

フェイラー(エリオット波動のガイドライン)  衝撃波の3波動目が5波動目の終点を越えることができない

「エリオット波動のルールは絶対に破れないよ! 必然的なルールだから!」と考えている人も多いと思います。

しかし、為替相場ではルールが破れることがあり、しかも、下位の段階になればなるほどよく現れ、5分足や1分足レベルの段階であれば結構な頻度で現れます。

ただし、その破れは「一時的な行き過ぎ」である場合がほとんどです。


ルール破れのイメージ図


エリオット波動の行き過ぎ(ルール破れ)はなぜ起こるのか?



エリオット波動の行き過ぎ(ルールの破れ)はなぜ起こるのか?

まずはエリオット波動の識者は「エリオット波動の行き過ぎ」についてどのように考えているのかみてみましょう。



【識者の見解】高レバレッジではルールが破れる


エリオット波動の熱心な研究者であるA.Jフロストやロバート.R.プレクター.ジュニアは、世界的にベストセラーになったその著書「Elliott Wave Principle(邦訳版 エリオット波動入門)」の中で以下のように述べています。


最も一般的な推進波は「衝撃波(Impulse Waves)」である。衝撃波において第4波が第1波の価格帯に割り込む(いわゆる重複)ことはない。このルールはレバレッジをかけないすべての現物市場に当てはまる。一方、大きなレバレッジをかけられる先物市場では、現物市場には見られない価格の一時的な行き過ぎが起こる。


エリオット波動の研究で最も著名な二人は「大きなレバレッジをかけられる市場では波動の行き過ぎが起こる」という見解。


投機が目的にもなる市場のほとんどはレバレッジをかけられるようになっていますが、為替市場はどうでしょうか。

FXで問題となっているのが高レバレッジでの取引で、海外の投機筋は信じられないほどの大きなレバレッジをかけて取引してきます。

なぜなら、彼らは為替市場に投機することが職業であるからです。効率よく収益をあげるために、高レバレッジで取引するのは当たり前のことです。


日本ではどうでしょうか。

FX会社のトレード環境は年々よくなってきており、スプレッドは昔と違いかなり狭く設定され、逆指値などの注文も簡単に設定でき、またトレードツールもMT4などプロ顔負けの仕様となってきています。

この垣根が下がったことにより、近年は一般の個人投資家の数がグッと増えてきています(ミセスワタナベさんなど)。

スキャルピングやデイトレードを行う個人投資家の多くは、レバレッジをかけて厚めにポジションを建てると同時に、リスク管理からわりと近くに逆指値を入れておくという戦略をとります。

つまり、損切りの連鎖から突発的に大きく価格が動き、波動の行き過ぎが起こり易くなっているというわけです。


個人的にも、この二人の識者の見解と同意見です。

現在の為替市場において、このレバレッジの影響により、波動の行き過ぎが起こる可能性は高くなっていると言えそうです。


A.Jフロストやロバート.R.プレクター.ジュニア「Elliott Wave Principle(邦訳版 エリオット波動入門)」はこちら


下位の段階では行き過ぎ(ルールの破れ)が起こり易い


エリオット波動の行き過ぎは、月足や週足などの大きな段階で目にすることはあまりありません。

その理由(後ほど説明)から、下位の段階になればなるほどエリオット波動の行き過ぎは起こり易くなります。


エリオット波動の生みの親R.N.エリオットの時代のチャートは、自分の手で作成していくのが一般的だったようです(エリオットも、日足や1時間足チャートを手書きで作って、そこから波動原理を見つけ出したそうです)。

R.N.エリオットの時代とは異なり、現在の取引ツールはMT4などの優れたツールが用いられ、30分足や5分足、そして1分なども簡単に確認できる時代になってきています。

先程のレバレッジによる影響からくる行き過ぎは一瞬の出来事である場合がほとんど。

当然、段階が小さくなればなるほどその影響も大きくなり、5分足などでは波動の一時的な行き過ぎ(ルールの破れ)がさらに起こり易くなってきます。

分足でエリオット波動を使う場合は、波動の行き過ぎに注意しておくことが必要です。



【ルールが破れる理由:その1】主導通貨の影響で行き過ぎる


次は、レバレッジの影響による一時的な行き過ぎは、どのような要因で引き起こされるのか考察してみます。


他の市場とは異なり、為替市場は各通貨(又は通貨ペア)が影響し合いながら波動が進んでいきます。為替相場の予想はこの辺りがとても難しくまた面白くもあります。

ドル円、ユーロドル、ユーロ円の関係で見た場合、ドル円だけが独立した動きになることはなく、ときにユーロドルとユーロ円から影響を受け、またときに影響を与えながら波動が進んでいきます(この3通貨ペアはよく三つ巴になる)。

そして、為替相場における行き過ぎは、その多くが市場を主導している通貨の影響によって引き起こされます。

たとえば、A通貨がエリオット波動のルールのギリギリのラインに位置している時に、市場を主導しているB通貨で大きな動きがあれば、その影響からA通貨に行き過ぎが起こってしまうわけです。

為替市場は関連通貨が影響し合いながら波動が進んでいくため、このような波動の行き過ぎが起こるのはある程度しょうがないようです。

対策としては、時間帯を見ながら、できるだけ市場をリードしている通貨を探してトレードすることです(関連通貨の波動展開もチェック)。

東京時間ではユーロドルよりドル円。逆に欧州時間ではドル円よりユーロドルの方がエリオット波動の理想的な波動展開になり易いのは想像に容易いと思います。

この他にも、波動が揃わないことによって行き過ぎが起こることがあります。

大きな段階の節目では、特定の通貨ペアが単独でトレンド転換するということはまずありません。関連通貨がタイミングを合わせて一斉に反転してくる場合がほとんどです。

波動が揃うまでに時間がかかってしまうと、関連通貨の流れに引きずられて行き過ぎてしまうといったケースも出てきます(波動が揃う直前は往々にして大きな変動がある)。



【ルールが破れる理由:その2】経済指標などの影響による行き過ぎ


為替相場に影響を与える外部要因のひとつに経済指標があります。

なかでも、為替市場は米ドル(ドルインデックス)が相場をリードすることが多いため、米国の経済指標は特に注目されます(しかも、ボラティリティが大きくなる時間帯に発表される)。

この米国の経済指標の影響により行き過ぎが起こってしまうことがあります。

また、米国(FOMC)、ユーロ圏(ECB)など各国の金融政策も外部要因。

たとえば、政策金利の発表や議事録の公開後、「その内容に素直に反応→行き過ぎでルールが破れる→ヒゲを付けて大きく反転して元の流れに戻る」といった展開などです。

この他、有事、災害、要人の発言などのニュース、株価や長期国債などの動向、そして様々なテクニカル指標に起因する行き過ぎもあります。



エリオット波動の行き過ぎは一時的【反転のトリガー】


ここまでレバレッジの影響などから波動の行き過ぎが起こることを考察しました。

しかし、エリオット波動のルールは必然であるとされています(必ずそのようになる)。

なので、たとえ波動が行き過ぎたとしても、相場にそれ以上その方向に進んでいく力はなく、エリオット波動の示す方向に急反転して、その後は通常の波動展開にすぐに戻ります。

結果、そのような行き過ぎは、ヒゲだけの一時的なもので終わってしまうことがほとんどです。

さらに言えば、この「ヒゲを付けた一時的な行き過ぎ」は、次の波動がスタートするトリガーとなり、往々にして絶好のトレードチャンスとなります。

一時的な行き過ぎの判断は、ヒゲを付けてからの展開(下位の段階)が推進波かどうかを確認してみることです。

なぜなら、推進波はトレンドを押し進めていくフォーメーションで、常にひと回り上の段階のトレンド方向に現れるからです。

なので、その展開が5つの波の推進波(衝撃波やリーディング・ダイアゴナルトライアングル)であるならば、一時的な行き過ぎである可能性が高いといえます。


以上、ここまで「波動の一時的な行き過ぎ」についてでした。

次に、実際にどのような行き過ぎ(ルール破れ)が起こるのか考えてみます。




どこが行き過ぎどのルールが破れるのか?【2つのポイント】



一般的に「エリオット波動のルール」と言われているものは、推進波の主役である「衝撃波の3つのルール」のことを指します。

まずは、その3つのルールをおさらいしてみましょう。


衝撃波の3つのルールとは?

衝撃波の3つのルール解説図

トレンドを押し進める5つの波の推進波で最も一般的なのは衝撃波です。

そして、この衝撃波にはルールがあります。



衝撃波の3つのルール

■2波動目は1波動目の始点を越えない

■1・3・5波動目で3波動目は一番小さな波動にならない※2番目はOK

■1波動目と4波動目は重複しない



ルールといっても、上の3つだけの簡単なものです。


この3つのルールのうちのどのルールが一時的に破れるのか?


エリオット波動の研究者であるA.Jフロストやロバート.R.プレクター.ジュニアは、1波動目と4波動目の重複は起こるとの見解でした。

しかし、個人的には高レバレッジの市場では2波動目が1波動目の始点を一時的に行き過ぎてしまうルール破れも起こると考えています(特に下位の段階)。



【ポイント:その1】2波動目の一時的な行き過ぎ


2波動目の行き過ぎイメージ図
上の図は、修正2波動目で一時的な行き過ぎが起ったケースです。

このように、2波動目が1波動目の始点を一時的に行き過ぎてしまうルール破れが現れてくるのはなぜか?


それは、前述のレバレッジなどの要因に加えて、修正2波動目の局面が持つ2つの「波の個性」にその理由をもとめることができます。




修正波の波の個性

■2波動目はジグザグ系が現れ易く深いリトレイスになる

■修正波のC波は大きく力強い波動になる



トレンドが変わり1波動目が終了した時点では、すでにトレンド転換しているということに気付いている投資家は極めて少なく、多くは「単なる一時的なプルバック! 絶好の押し目(戻り)だ!」と考えます。

また、トレンド転換したと考えて新しいトレンド方向にポジションを建てた投資家も、その勢いの強さから疑心暗鬼となりポジションを投げてきます。

ひとつ目の理由がこれで、ほとんどの修正2波動目は深くリトレースをすることとなり、1波動目始点近くまでプルバックをしてくることも珍しくはありません(理想的には1波動目のFR50.0、FR61.8付近)。

しかも、修正パターンでよく現れるのがジグザグ修正波(波動展開は5-3-5)。

ジグザグ修正波などの単純なABC修正波のC波は力強い波動になるという波の個性があり、ときにその波動は衝撃波の3波動目と間違えてしまうほどの強烈な展開を見せます(拡大フラットのc波も同様、また為替相場ではフラットのc波も強力な波動となることがある)。

ふたつ目の理由はここにあります。この強力なC波が1波動目の始点を一時的に行き過ぎてしまう要因になるわけです。

この他にも、上の図のように1波動目の推進波が5波延長型衝撃波(5波動目がエクステンション)の場合は、次の2波動目のリトレイスが深くなり、行き過ぎの要因になることがあります。

修正波のA波が5-2波動目でサポート→ダマシのB波で反転、そして最後のC波で1波始点を一時的に行き過ぎるといった展開です。


このようなヒゲを付けた一時的な行き過ぎはトレンド転換のサインとなり、次の3波動目が勢いよくスタートしていくトリガーによくなります。



【ポイント:その2】4波動目の一時的な行き過ぎ



次は、A.Jフロストやロバート.R.プレクター.ジュニアが述べている修正4波動目の一時的な行き過ぎです。

「1波動目と4波動目は重複しない」このルールは、あくまで推進波のひとつである「衝撃波のルール」です。

1波動目と4波動目が重複する推進波「ダイアゴナルトライアングル」とごちゃ混ぜにせず、しっかりと区別して捉える必要があります。

今回は「衝撃波の行き過ぎ」がテーマなのでダイアゴナルトライアングルには触れません。詳しくは「エリオット波動の推進波 その種類と特徴のまとめ」をご覧ください。


修正4波動目は浅いリトレイスで横這いの修正波が現れ易いという波の個性があるというものの、その正当化される許容範囲は広く、トレーダーにとっては厄介な波動です。


修正4波の許容範囲をあらわした図


上は修正4波の許容範囲をイメージした図です。



修正4波の許容範囲(強気相場のケース)

■上限は3波動目終点ライン(ただし、拡大フラット修正波やランニングトライアングル修正波など3波動目の終点を越えてくるものもある)

■下限は1波動目の終点ライン




上のイメージは上昇推進波トレンド(強気相場)ですが、このように修正4波動目の許容範囲はとても広いものです。

3つの衝撃波の中で最もよく現れる3波延長型衝撃波では、許容範囲が広くなるため、1波動目と4波動目が重複することはあまりありません。


4波動目で行き過ぎが現れるのは、その範囲がそこまで広くない1波延長型衝撃波と、5波延長型衝撃波です。


1波延長型衝撃波における4波動目の行き過ぎ


1波延長型衝撃波と行き過ぎのイメージ


1波動目に延長波を内包する1波延長型衝撃波(波の大きさは1>3>5)は、そもそも4波動目の許容範囲が狭いフォーメーションです(上図)。

このため、このフォーメーションでは1波動目と4波動目が重複する一時的な行き過ぎが起こり易くなります。

また、このフォーメーションは、

  • 3波動目が終わった段階での波動展開は5-3-5
  • 3波動目が1波動目の×1.00以下

という展開。

そうです。3波動目まではジグザグ修正波であると捉えてもおかしくない展開です。

このことから、「ジグザグ修正波だ!」と考えるトレーダーが一気に売りを浴びせてくるため、1波動目と4波動目が重複し易くなるというわけです。

※さらに付け加えると、この1波延長型衝撃波では、5波動目が行き過ぎて3波動目の大きさが一番小さくなるというルール破れも稀に現れてくると考えています。


5波延長型衝撃波における4波動目の行き過ぎ

5波延長型衝撃波と行き過ぎイメージ

5波動目に延長波を内包する5波延長型衝撃波も4波動目が行き過ぎる(1波動目と4波動目が重複)ことがあります(上図)。

5波動目が延長波(エクステンション)となる要因は3つあり、その要因の違いによって5波延長型衝撃波の形は微妙に変わってきます。

※5波延長型衝撃波の3つの要因は、エリオット波動の「衝撃波のエクステンション」を徹底解剖をご覧ください

その3つの中で、1波動目と3波動目の大きさがあまり変わらないことに起因する5波延長型衝撃波にルール破れが現れます(ただし3波動=1波動目×1.00以上)。

オルターネーションから5波動目が延長波となるのですが、このケースでは4波動目の許容範囲が狭くなること、また先ほどの1波延長型衝撃波と同じく3波動目が終わった時点ではジグザグ修正波と同じ展開になることがルール破れの原因。

5波延長型衝撃波で1波動目と4波動目が重複するのはこのパターンがほとんどです。

※このようなパターンでの次の5波動目は必ずと言っていいほど延長波(エクステンション)で強力な波動となります。


このように、1波延長型衝撃波と5波延長型衝撃波では1波動目と4波動目が重複する一時的な行き過ぎ(ルール破れ)が起こると考えています。


では、実際の為替相場のチャートで一時的な行き過ぎがどのように現れるのかみてみましょう。



実際の為替相場チャートに現れた行き過ぎ【ユーロドル4時間足】

行き過ぎが現れたユーロドル4時間足チャート
上はユーロドル4時間足チャート(2018年2月)に現れた一時的な行き過ぎで、衝撃波5波動目の副次波5波動目1波と4波が重複するルール破れです(赤丸のポイント)。

1波動目と3波動目があまり変わらない大きさ→経済指標の発表→4波動目の一時的な行き過ぎでヒゲの部分が重複→最後の5波動目がエクステンション(1波延長型衝撃波)→衝撃波完成でトレンド転換という流れでした。

このように、たとえ行き過ぎが起こったとしても、ヒゲの部分だけの一時的なもので終わる場合がほとんどです。


以上、「衝撃波のどこが行き過ぎどのルールが破れるのか?」についてでした。






エリオット波動の一時的な行き過ぎのまとめ



エリオット波動の衝撃波の3つのルールは必然です。しかし、高レバレッジの相場では一時的な行き過ぎ(ルール破れ)が起こってしまいます。

また、近年は連動型EA(自動売買)がかなり普及してきました。このような環境も衝撃波の一時的な行き過ぎが起こる要因のひとつになっていると思われます。

このような状況においては、たとえ必然的なルールと言えども、一時的な行き過ぎも念頭に置きつつ、フレキシブルに対応していこうと言う姿勢が求められていると言えるのではないでしょうか。

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